小説置き場

ひび割れの福音

| 現代クライムサスペンス神話伝奇成長譚

壊れたスマホが映す画面には、いつも「最も都合のいい現実」が写っている。

トクリュウに使い捨てにされた18歳の少年・瀬戸蓮は、ポケットの壊れたスマホに宿る神器「八咫鏡」の力で死地を脱する。追手がなぜか違う角を曲がる。監視カメラの死角が偶然重なる。あり得なくはないが、都合が良すぎる——そんな不気味な「偏り」が、蓮の周りでだけ起きる。

だが奇跡には代償がある。使うたびに記憶がズレ、現実の手触りが薄れ、自分が「同じ自分」なのか分からなくなっていく。

神器を回収する秘密組織。デジタル裏社会を支配するかつての親友。逃げて、隠れて、時に小さく反撃しながら、蓮は問われ続ける。

——都合のいい結末を選べるなら、人はそれを使うべきか?

エピソード一覧 全20話

1
なぜ覚えるか
瀬戸蓮の日常。トクリュウの末端として回収・見張り・後始末をこなす18歳。空気を読む勘だけで生き延びている。先輩からの指示、車に乗り込み、湾岸倉庫へ向かう
2,647字 約6分
2
なぜ冷たいか
湾岸倉庫での回収作業と掃除。作業中、壊れたスマホが振動した気がする。異様な冷たさ。駅前のベンチで深夜を過ごしながら、蓮は自分が犯罪の道具であることを曖昧に自覚する
4,067字 約9分
3
偶然か罠か
ある回収案件に呼び出される。現場に着くと味方がいない。上からの切り捨て——蓮を消す前提の罠だったと悟る。逃げ道がない。追手が迫る
3,308字 約7分
4
ひびに何が
本来なら終わっている局面で、ポケットの壊れたスマホを覗いた瞬間、不自然な突破口が成立。監視カメラの死角が偶然重なる。追手がなぜか違う角を曲がる。蓮は辛うじて生き延びるが、助かり方があまりに都合よく、違和感を覚える
3,255字 約7分
5
なぜ消えない
自分が使い捨てにされたことを完全に悟る。トクリュウに戻る道はない。逃亡を決意するが、金も身分証も安全な場所もない。現金だけ掻き集め、深夜の街へ消える
3,249字 約7分
6
記憶は戻るか
逃亡初日。ネットカフェや漫画喫茶を転々とする。ふとした瞬間に耳鳴りがする。スマホのひび割れた画面に、一瞬だけ違う風景が映ったような気がする。気のせいだと思い込む。トクリュウ側では消したはずの雑用が消えていないと報告が上がる
3,663字 約8分
7
偶然はあるか
逃亡生活の知恵を体で覚え始める蓮。キャッシュレス決済を避け、監視カメラの死角を選び、同じ場所に二泊しない。だがトクリュウの追手が蓮の行動パターンを読み始めている
2,359字 約5分
8
また偶然か
追手に追い詰められた蓮。袋小路で逃げ場がない。壊れたスマホを握った瞬間、追手のスマホが誤動作し、もう一人が転倒する。蓮は逃げるが、直後に視界にノイズが走る。「これは偶然じゃない」と初めて明確に思う
2,429字 約5分
9
記憶の穴か
二度目の偶然の後、蓮の記憶に小さな穴がある。昨日食べたものが思い出せない。一方、鑑守会の観測部が因果の歪みを検知し、報告書が提出される。蓮はまだ特定されていないが、「何かが動いている」と認識される
1,912字 約4分
10
なぜ生きたか
【第1ブロッククライマックス】三度目の追跡。組織的な追い込み。蓮は完全に詰む。スマホの画面が黒く光り、あり得たかもしれない逃走経路が一瞬映る。その通りに動くと信じられない確率で抜け出せる。だが直後、蓮は自分の名前を一瞬忘れる
2,764字 約6分
11
安全とは何か
蓮は足立区のネットカフェに長期滞在を始める。現金払い、身分証不要。束の間の安全。だが金が尽きかけている。日雇いの仕事を探すが、顔を晒すリスクと天秤にかけられない
12
誰が見ている
日常の中で既視感が頻発する。スマホのひび割れが広がっている気がするが確信は持てない。力の副作用が日常に侵食し始める。蓮は空腹と疲労の中で現実の輪郭を見失いかける
2,675字 約6分
13
なぜ余分か
ネットカフェの夜勤店員・倉田美咲が蓮に気づく。「あんた、もう二週間いるでしょ」。詮索はしないがカップ麺を一つ余分に置いていく。蓮にとって久しぶりの普通の人間との接触
2,815字 約6分
14
裏口はどこか
追手がネットカフェの近くに現れる。美咲が蓮を裏口から出して追手をやり過ごす。事情は聞かないが、店の前で捕まられると困る。蓮は普通の世界の人間の温度を思い出す
2,873字 約6分
15
都合がよすぎないか
再び追い詰められる。今度は美咲の近くで。八咫鏡が発動し、追手が「たまたま」別の通報に反応して離れる。だが蓮は気づく——美咲との昨日の会話の内容が微妙に食い違っている
2,738字 約6分
16
どちらが正しいか
記憶のズレが明確になる。蓮と美咲の記憶が一致しない場面が増える。待ち合わせの時間、頼んだ飲み物の種類。蓮は自分の周囲で何かがおかしいと確信する
17
死なないのはなぜか
トクリュウ側の視点。蓮を追跡するチームが困惑している。毎回ギリギリで消える。運がいいのではなく何かがおかしい。より上位の者に報告が上がり、薫のネットワークに情報が届く
18
何が映るのか
蓮がスマホのひび割れた画面をじっと見る。黒い画面に一瞬だけ「ここではない場所」の風景が映る。窓の外の天気が違う。通行人の数が違う。蓮は画面から目を離せなくなる
2,648字 約6分
19
なぜ放っておけないか
美咲の日常。専門学校を中退し、ネットカフェの夜勤で生計を立てる21歳。普通の生活の中にある小さな苦しさ。蓮と関わることで面倒ごとに巻き込まれつつある自覚。それでも放っておけない
2,603字 約6分
20
何を持っているか
【第2ブロッククライマックス】大規模な追跡。蓮と美咲が一緒にいる時に追手が来る。八咫鏡の発動。だが今回の副作用は大きい。蓮の視界全体にノイズが走り、数秒間自分がどこにいるのか分からなくなる。美咲が蓮の腕を掴んで走る
2,594字 約6分