小説置き場

第18話「インベントリ枯渇」

1,795文字 約4分

リサの作戦は、ジャンク屋の在庫整理と本質的に同じだった。ただし棚に並んでいるのはSSR武装で、整理の結果はガシマの丸裸だ。

「ガシマのSSR武装は三種類。剣、盾、鎧。剣の耐久回数は十二。盾は八。鎧は無制限だけど、剣か盾を使うたびに鎧の防御力が一段下がる仕組みになってる」

「なんで知ってる」

「エンタープライズの仕様書。SSR武装のパラメータテーブルは丸暗記してた。上位レイヤーにいた頃、こういう情報が交渉のカードだったから」

 リサの記憶力は異常だ。三桁のパラメータを暗記している。

「つまり、剣を十二回使わせれば壊れる。盾を八回使わせれば壊れる。鎧は剣と盾が消えれば紙同然。——問題は、どうやって使わせるか」

「誘導するのよ。剣を使わせたいなら、攻撃対象を見せる。盾を使わせたいなら、攻撃を仕掛ける」

「攻撃を仕掛ける? 俺たちの攻撃力でガシマに何かできるのか」

「ダメージを与える必要はない。盾を使わせるだけでいい。クロヤ、あなたのデバイスからピング攻撃を撃てるわね」

「最低威力のやつなら」

「最低威力でいい。ガシマのシステムが攻撃と判定すれば、自動防御が起動して盾を消費する。ダメージがゼロでも、盾の耐久値は一回分消費される」

「……ゼロダメージの攻撃を八回撃てば、盾が壊れる」

「そう。次に剣。剣はガシマが攻撃するときに消費される。私が広告無敵で空振りさせれば」

「ガシマの攻撃が空を切っても、剣の耐久値は消費される」

「十二回空振りさせれば、剣が壊れる。盾が壊れて、剣が壊れて、鎧が紙になる。——裸のガシマは、ただの太った中年よ」

 リサが机の上に紙を広げた。手書きの作戦図。

  【在庫ゼロ作戦】      フェーズ1: 盾の消耗(クロヤ担当)   - ピング攻撃×8回。1回ごとに30秒のインターバル   - ガシマの自動防御が起動し盾を消費   - 所要時間: 約4分      フェーズ2: 剣の消耗(リサ担当)   - リサがガシマの攻撃範囲に入り、広告無敵で空振りさせる   - 剣の攻撃×12回。1日の広告回数は40回/日。余裕あり   - 所要時間: 約10分(広告のタイミング待ち込み)      フェーズ3: 鎧の劣化   - フェーズ1-2の進行で鎧の防御力が低下   - 最終的に防御力ゼロ      フェーズ4: 追加購入の誘導   - 武装が壊れたガシマがガチャを回す   - リボ払い変換で経費消費を加速   - 壊れる→買う→壊れる→買うの無限ループに追い込む

「これ、リサが全部考えたのか」

「考えたわよ。何日もかけて」

「お前が戦術を立案するの、初めてだな」

「初めてよ。でも在庫を読むのは得意なの。相手が何を持っていて、何が消耗して、何が足りなくなるか。それを読んで、消耗を加速させる。交渉と同じよ」

 交渉と同じ。

 リサはエンタープライズの交渉術を、戦闘に応用した。相手の在庫を読み、消耗を誘導し、最後に「もう売るものがない」状態に追い込む。

 巻き戻せ。穴がある。

「リサ。一つ問題がある」

「何」

「フェーズ2。お前が攻撃範囲に入る。広告無敵が五秒だとしても、広告と広告の間は無防備だ。ガシマの剣が来るタイミングと広告のタイミングが合わなかったら」

「合わせる。広告の配信間隔は平均三十六分。プラスマイナス十五秒の誤差。この誤差の範囲で、ガシマの攻撃タイミングを調整する」

「調整って、ガシマが攻撃するタイミングを操れるのか」

「操れる。ガシマは怒りっぽくないけど、プライドが高い。目の前で挑発されたら——攻撃する。挑発のタイミングを広告の直前に合わせれば」

「広告が始まった瞬間に攻撃が来る。空振りする」

「そういうこと」

 俺はリサを見た。

 銀髪。灰色のウォーターマーク。Omniverse Free。元エンタープライズの令嬢。

 こいつは——強い。

「リサ。お前さ」

「何」

「最初に会ったとき、凍結されたお嬢様だと思ってた」

「お嬢様だったわよ」

「今は違う。お前は戦術家だ。俺より頭がいい」

「褒めても何も出ないわよ」

「褒めてない。事実を言ってる」

 リサが少し笑った。それから真顔に戻った。

「クロヤ。この作戦、失敗したらどうなる」

「ガシマに叩き潰される。区画ごと」

「失敗しないようにするわ。在庫を読み間違えたことは、一度もないから」

 明日。作戦開始。

 リサの初の戦術が、実戦に出る。

 俺はデバイスを充電しながら、ピング攻撃のパラメータを調整した。最低威力。ダメージゼロ。だが攻撃判定は通る。

 ゼロダメージで盾を壊す。空振りで剣を壊す。

 金で殴る男を、ゼロで倒す。

 ——悪くない作戦だ。